兄ちゃんが死んだ。 部屋の中、毛布を被ってひたすらその言葉を反復していた。 人の死は、思っていたよりもずっとあっけなくて、上手く飲み込めなかった。 兄ちゃんは、元気に玄関を開けて帰って来るんじゃないかと思った。 それで、また、母ちゃんと喧嘩を始めるんじゃないかと思った。 でも、喧嘩相手の母ちゃんは、今まで見たこと無いくらいに弱っていた。 泣いて、泣いて、泣いて、髪なんかぼさぼさで、見る影も無かった。 帰ってきた兄ちゃんは、既に棺に入れられていた。 顔を覆って泣きじゃくる母ちゃんの代わりに、そっと棺を開けてみた。 兄ちゃんの顔はちょっと汚れていたけど、目は閉じられていて、眠っているみたいだった。 でも、首には包帯が巻かれていて、現実の死を目の当たりにしてしまった。 殺されたのは、兄ちゃんだけじゃなかった。 兄ちゃんが頼りにしていて、俺もよくしてもらった充さんも死んだ。 一番よく家に遊びに来て、俺も一緒に遊んだ博くんも死んだ。 オカマだけど、色んな事を知っていて俺に世の中を教えてくれたヅキさんも死んだ。 俺が万引きした時、助けてくれた桐山さんも死んだ。 みんな、色んな悪いことやってたけど、良い人ばっかりだった。 俺にとってはみんな、かっこよくて優しい兄ちゃんだった。 蒲団の上に涙がぼろぼろと零れていった。 悲しかった。 兄ちゃんたちが死んだことじゃなくて。 彼らへの思いが全部過去形になってしまっている事実が。 既に死を受け入れ始めている事が、怖くて仕方無かった。 そうだ、もしこれがドッキリだったら、思い切りぶん殴ってやろう。 充さんだって、桐山さんだって、構わず、思い切りぶん殴ってやろう。 殴り返されたって、構いやしない。 殴る元気があれば、もうそれだけで良いんだ。 ねぇ、ヅキさんのキスだって、ちょっと気持ち悪いけど受け入れるよ。 博くんのつまんないギャグにだって、笑ってあげるよ。 だから、みんな、帰って来てよ。 お願いだから、帰って来てよ。 「 帰 っ て 来 て よ ! ! ! ! ! ! 」 翌日、兄ちゃんは熱い 火 の中に入れられて ただの 煙 となって、空に上っていきました。 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − 世にも珍しい笹川弟。 ですか、私にとっては結構書きたかった子でございます。 色々推測してお話を捏造出来る美味しい子だと思うです。 後、笹川は外で死んだから、遺体は綺麗じゃなかったでしょう。 |