二時間目の休み時間、笹川くんと三村くんが言い合いを始めた。

きっかけは些細な事だったと思う。

三村くんが、五月蝿かった笹川くんを注意したら、笹川くんがキレてしまったのだ。

(確かに三村くんの言い方も、大分トゲがあったと思うけれど)

暫く言い合いが続いて、遂にそれは乱闘にまで発展した。





笹川くんが三村くんの胸倉に掴みかかる。

三村くんはあくまでクールな姿勢を崩さず、笹川くんの手を払った。

けれど、逆にそれが笹川くんを苛立たせてしまった様で、彼は三村くんを殴ったのだ。

そして最悪なことに、やり返された笹川くんの体は、隅に避けていた私の足元に倒れた。

起き上がった彼は、頬を殴られ、口の端から血が出ていた。

更に、飛ばされた時何かにぶつかったのか、目の下に擦り傷が出来て、そこからも血が滲んでいた。

笹川くんの血を見て、私の血の気は一気に引いた。

吐き気がし、足元がぐらぐらと揺れて、私はその場にしゃがみ込んだ。



「・・え?ゆうこ?大丈夫?ねぇ、ゆうこ!?」



すぐ隣に立っていた知里が驚いたように声を上げる。

何故かその声はとても遠くから聞こえて、急に心細くなった。

私は酷い吐き気の所為で喋れず、首をふるふると横に振った。



「ゆうこ?どうしたの??」



幸枝が心配そうに駆け寄ってきて、私を心配そうに覗きこんだ。

顔を上げると幸枝越しにクラスの様子が少し見えた。

いつの間にか乱闘は終わっていて、皆が何事かと私を見ている。

自分が見られている事が分かると、余計に吐き気が酷くなってしまった。

私は口元を押さえたままで、何とか声を絞り出した。



「吐きそう・・・」



どうしよう、気持ち悪い。

すぐトイレへ駆け込みたかったけれど、足が震えて立てなかった。

知里と幸枝が支えようとしてくれてるけど、歩けそうに無い。

こんなところで吐いたりしたら、皆にどんな目で見られるか。

そう考えると尚更泣きそうになってしまった。

でも、もう駄目、だって歩けないもの。

そう思った瞬間、ふわりと体が浮いた。



「もう少し我慢しろ」



落ち着いた低音は、杉村くんのものだった。

私を囲む人ごみを掻き分け近づいた彼は、私を横抱きに持ち上げたのだ。

そしてそのまま水飲み場まで連れて行ってくれた。

着いて直ぐに私は吐いた。

杉村くんが見てるのは恥ずかしかったけれど、我慢できなかったから。

彼は私の背中を優しく擦ってくれた。



「大丈夫だ。全部吐いて良いから」



優しい声に、吐く苦しさとは別の涙が溢れた。












それから杉村くんはわざわざ保健室まで連れて行ってくれた。

先生がいなかったので、ベットに寝かせてくれたりと、全部杉村くんがやってくれた。

去り際に杉村くんがカーテンに手をかけて振り返った。



「じゃあ、先生には言っておくから」



私は、吐いて、泣いた所為でぼうっとした頭で答えた。



「うん。・・・杉村くん、ありがとう」



杉村くんは頷くと、カーテンを横に引いた。

シャッと軽い音が鳴って、辺りは薄暗くなる。

私は暖かい毛布に包まって、そのまま眠りへと落ちた。

こんな優しさを信じて、あの恐怖が安らぐ、いつの日かを夢見て。




− − − − − − − − − − − − − − − − − − − −

トラウマガール・榊ちゃん。(不謹慎)
相手を杉村にするか、桐ファミのどれかにするかで迷いました。
けど桐ファミが相手の話は書く予定があるので、杉村を採用。
榊ちゃんでは男の子達に優しくされていた話を沢山書きたい。
優しくされていたのに、(プログラムで)忘れてた・・・!みたいな。(?)