「充に質問!」


突然黒長が、面白いものを見つけた子供の様な顔で挙手した。 充は大方くだらない事なのだろうと踏んで(そもそも充の中で意味があるのは桐山の言葉くらいなのだが)、気だるそうな眼差しで答えた。


「あぁ?何だよ」


それよりも早く言いたいとうずうずしている黒長は、そんな充の態度は何のその。 相変わらず瞳をキラキラと輝かせながら言った。


「ボスと金井が今にも崖から落ちてしまいそうです。
けど助けられるのはどっちか一人。さぁ、どっちを助ける?」
「・・・・・・ボスはそんなヘマしねえよ」


明らかな間には、何言ってんだこいつはばっかじゃねーのふざけんなお前や竜平じゃあるまいしボスがそんな無様な醜態さらすことなんて地球が逆回転したってありえねーよ ・・・と、兎に角色々な言葉が含まれていたのだが、それを敢えて口にしてこの繊細な友人をへこませる程、充は子供では無かった。 しかし黒長はそんな充の心遣いを汲めるほど大人では無かったので、ぶー、と言いながら頬を膨らませる。 年不相応な仕草だったが、小柄で普段から子供っぽい言動の目立つ黒長には特に違和感は無かった。 (本人はそれを酷く気にしているので、嫌がることは必至だが)


「だからー、もしもの話だってば!」
「無い無い無い。っつうかそれ、心理テストみたいなやつだろ?俺、そんなの興味無ぇし」


充はあくまで落ち着いた態度で黒長を払う。 中々引かない黒長が鬱陶しかったが、そんな子供らしいところが気に入ってもいたので本格的に邪険には扱えなかった。 実際傍から見れば【兄に構ってもらえない弟】の図で、実に微笑ましかった。 ったく、ガキだなぁ、と笑いながら踵を返そうとして、ふと、充は今更ながらの疑問に行き当たる。


「充が無くても俺はあるのー!なぁ、どっち?」
「・・・おい、博。そもそも、何でボスと金井なんだ?」
「え?だって、充が好きなのってそのふた「別に金井のことなんて好きじゃねー!」


突然大きな声を上げた充に、黒長は目を丸くして肩を震わせた。 何だよそんなムキになるってことはやっぱり好きなんじゃねーか!と思ったが、いくら鈍感な黒長でも、それを実際口に出すのは火に油を注ぐ行為だと分かったので何も言い返さなかった。 そして言い返す言葉も度胸も持っていない黒長はこの後小一時間、顔を真っ赤に染めた充から説教(と言うよりは照れ隠しの文句だが)を受ける羽目になるのだが、仲間の面々は誰も助けることはせずただ遠巻きに面白そうに眺めていた。


「普段はお兄さん面だけど、やっぱり充ちゃんもまだまだコ・ド・モよねぇ」
「超くっだらねー」
「・・・・・」













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充は黒長のお兄ちゃん的存在だと思ってます。