今日の桐山ファミリー出席者は黒長と月岡の二人だけだった。 残りの三人については、遅刻してくることも多いので一応待ってはみたが五時間目の今になっても来ないということは、恐らく今日は欠席だろう。 適当に流しつつ授業を受け、今は男子の体育を眺めたい(覗きたい、の間違いだろうと黒長は心の中でつっこんだ)という月岡の要望で、 二人で屋上からグラウンドを眺めているところだった。 しかし月岡はともかく、普通に女の子が好きな黒長としては男子の体育を見学したってちっとも面白くなかった。 柵に背を預けたままぼーっと空を眺めていたのだが、唐突に何かを閃くと、体制を変えて月岡の方を振り返った。 「ヅキに質問!」 「なあに?」 黒長はうきうきとした瞳で月岡を見上げるのだが、残念ながら月岡の眼差しは三村が独占中の様で (勿論三村本人が不本意なのは言うまでも無い)、 グラウンド・・・正確に言えば、サッカーをしている三村、から視線を外さないまま答えた。 「充とボスが今にも崖から落ちそうです。 一人しか助けられないとしたら、どっちを助ける!?」 ・・・数日前、充にして、彼の地雷を踏んだ質問だった。 一時間近くに渡る説教を忘れた訳でもあるまいに、黒長は全く同じ質問を月岡にしたのだ。 ここに充か笹川が居たならば確実に『阿呆』と白い目で見られただろう。 しかし残念ながら此処にはどちらも居なかった。 月岡は話半分といった感じで(それでもそう見えるのは外見だけで、実際はきちんと聞いているのだから凄い)、 ぽつりと呟くように答えた。 「そうねぇ・・・・・・三村くんかしら」 月岡の答えに黒長の目は点になった。 あれおかしいな俺三村の名前出したっけいやいや出していない出せば迷うことなく三村を選ぶに決まってるじゃないかじゃあどうして今三村の名前が出たんだろう。 黒長の疑問は途切れる事無く頭の中を駆け巡った。 そして、はた、と我に返った黒長が話の軌道を修正しようとするが、 「・・・・・・・・・・・いや、三村は落ちてな「三村くん」 言い切る前に遮られてしまう。全くオカマの力というのは圧巻だ。そして思い込みは恐ろしい。 黒長は妙に納得しながら、あれ?この流れ前にもあった気が・・・などと暢気に考えていた。 それが前回、この質問を充にした時だという事に、不幸にも彼はまだ気づいていない。 「だ、だから・・」 「み む ら く ん な の !」 「・・・・・・はい」 黒長にしては勇気を出した方だとは思うが、やはり恋するオカマに敵うはずも無く。 漸く月岡が黒長の方に振り向いたが、それは月岡による月岡の為だけの、長い長い妄想の始まりだった。 「それでぇ、助けられた三村くんがぁ、ぎゅってアタシの腕を掴んで 『ありがとう、彰、助かったよ。お礼に何かしてあげたい・・』 なぁ〜んて言っちゃったりしてぇ〜!そしたらアタシ何して貰おうかしらぁ〜! やっぱりデートよね!!二人で一つのパフェを食べたりぃ・・・あ!映画も行かなくっちゃ!王道よね!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」 胸の前で手を組み、虚ろな瞳(月岡曰く、それが恋する乙女の眼差しだそうだ)で、キャピキャピとはしゃぎ始めた月岡を、黒長は呆然と眺めていた。 またしても地雷を踏んでしまったことは理解出来たが、時既に遅し。 この状況の解決法には繋がらず、結局黒長は放課後まで付き合わされることとなった。 − − − − − − − − − − − − − − −
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