自分に向けられた銃が、カチャリ・・・と小さく音をたてたのが聞こえ、

もうとっくに限界を越えている体で、唯一自由に動かせる首を

今まさに自分を撃とうとしている少女―琴弾加代子―に向けた。

投げ出された自分の腕も目に入り、そこでやっと自分が銃を握りっぱなしだった事に気づく。

俺がこんな物を持って追いかけるから、琴弾を怖がらせちまうんじゃないか。

もう遅い後悔。俺は力を振り絞って手にしていた銃を放り投げた。

琴弾の目が驚愕に見開かれ、彼女の考えが自分の予想通りだった事を確信して、苦笑した。

言いたい事は沢山あったけど、きっと、もう、猶予は無いんだと、思った。

恐らく、今の銃声を聞いて、誰かが駆けつけて来るだろう。

そしてそれが桐山や相馬だったら、琴弾が助かる事は無い。

俺はゆっくりと口を開き、琴弾に『チケット』を渡した。



「あ・・・あ・・・杉村くん、あたし、何てことを・・・・!」

「良いんだ」



どうせ、最初から生き延びるつもりなんて、無かったから。

貴子と琴弾さえ無事なら、俺はどうなったって構わなかった。

けど、結局貴子を守ることは出来なくて。

抱きしめた腕の中で、貴子の体が冷たくなっていくのを感じた。

ぎゅっと肌を密着させて、俺の体温が貴子に移れば良いとすら思った。

勿論そんな願いは通じる筈も無くて、結局貴子は俺の腕の中で息を引き取った。

兎に角、やるせない気持ちでいっぱいで。

俺を叱ってくれた貴子はもう何処にもいなくて。

俺を支えてくれた貴子はもう何処にもいなくて。

あの暖かさも、声も、全て失われたんだと分かって、泣いた。

だから琴弾だけは、何が何でも守ってやりたかった。

もう大切な人を失うのはこりごりだった。

なのに。




「ごめんなさっ・・・杉村くん・・・あたしっ・・・あたし・・・」





俺、全然琴弾の事、守ってやれなかったな。










『あんたはねぇ、無愛想過ぎるのよ』


貴子の声が聞こえた。

そういえば、良くそんな事、言われてたな。

本当は琴弾が俺のことを怖がってたの、知っていた。

琴弾が好きな奴の話してるのに妬いて、ガキみたく酷い事言ったりして。

黒板に届かない姿が凄く可愛くて。でもぶっきらぼうにしか手伝ってやれなかった。

俺が見てるばっかりで、マトモに接した事なんて、これくらいなのに。

こんな事になるなら、もっと優しくしてやれば良かったよな。




雨じゃない、何か暖かい水がぽたぽたと落ちてくる。

うっすらと目を開くと、琴弾が泣いていた。

結局、俺は、怖がらせて、泣かせることしか出来なかった。

後悔と懺悔が、渦巻く。





ごめんな、琴弾。

俺、そうでなくても怖かったのに。

銃なんて持って追いかけたら、余計怖いよな。

それにお前の手まで、汚させてしまって。

こんなに酷い雨の中、お前を置き去りにしてしまう。

ちゃんと、雨の入らないところで、焚き火たけるか?

鳥の鳴き声のする方にだぞ?

後もうちょっとだけ、頑張るんだ。

七原達が迎えてくれるから。

助かるんだ。もう安心して良いんだ。

そしたら、また、お前の好きな奴にも会えるよ。

俺のことは、気にしなくて良いから。

ただ、時々で良い、少しだけで良い。

俺のことを思い出して欲しいと、思う。




「ずっと、とても、好きだったぜ」





守ってやれなくて、ごめんな、加代子。




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あーん、もう。大好き好き好き杉琴。
琴弾になりたいよ・・・!
このシーンは大好きですが、悔やまれてならない。
もうちょっとでも喋った事があったらな・・・と。
ちなみに最後は映画版を意識。
告白で息絶える方がドラマチックですよね。(爆)