川田の想い出は、何?

船の中、あの、優しい眠った顔。


三村の想い出は、何?

教室でノブサンが撃たれて、呆然としてた私を助けてくれた手。


杉村の想い出は、何?

加代子を探しに行くと言った、決意の篭った背中。


桐山の想い出は、何?

秋也に銃を向けた、無機質な目。






幸枝の想い出は、何?

赤い床に広がった、おさげ。


裕子の想い出は、何?

離れていった、小さな手のぬくもり。


雪子の想い出は、何?

普段からは想像もつかない、必死に訴える強い声。


友美子の想い出は、何?

彼女はいつもかっこ良かった。最期まで。















あれから随分と時間が過ぎた。

俺達だけが歳を重ねて、皆はまだあの教室で騒いでいた頃のまま。

でも、もうあの日常は、思い出すことすら出来なくなっていた。

皆との楽しかった想い出は、銃声と真紅の血にかき消されてしまう。

確かに1年間、皆と一緒に過ごしていた筈なのに。

そうしてまた、1年間、42人で過ごす筈だったのに。

全てを奪った悪夢は、日常に想いを馳せる事すら、許してくれなかった。

皆はあの教室で、どんな話をしていた?

皆はあの教室で、どんな笑顔をしていた?

皆はあの教室で、どう生きていた?

怒ったり、泣いたり、確かに日常があった筈なのに。

どうして、あの二日間の事しか、思い出せないんだろう。

忘れたい気持ちと、忘れたくない気持ちがぐしゃぐしゃになる。

銃を持つたびに、悪夢を思い出す。それでも俺達は闘い続ける。

これ以上の犠牲を増やさない為に、今はひたすらに。

走り続けよう。止まってはいけないのだ。

勝利を掴んだその時こそ、暖かい想い出に浸かろう。

俺達は、40人の命と記憶を背負っている。




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記憶とは薄れていくもの。
より印象の強いものが残ります。
忘れたくないものを忘れる時が来る。
忘れたいのに忘れない時もある。
何だか悲しいですね。