ある晴れた日の午後、桐山ファミリーは揃って屋上に来ていた。

ちなみに今は五時間目。3Bのクラスでは、数学の授業の真っ最中だった。

青空の中、ゆっくりと雲が流れていく。それに混ざるかの様に立ち上っていく煙草の煙。

充はぼーっとそれを眺めていた。隣では桐山が本を読んでいる。

漫画しか読まない充にとっては、全く理解しえないような内容だ。

更に、向かい。竜平と黒長とヅキが座っている。

竜平も充と同じように煙草をふかしている。(ただしコイツのは安物だ)

黒長はさっきからずっと、持参してきたお菓子を頬張っていた。

そしてその横で、愛用の手鏡で髪型を整えているヅキ。

急に、その鏡をパタンと閉じると、四人の方を向いた。



「決めたわ」

「・・・何が?」



桐山以外の三人がヅキへ視線を向ける。

問いかけたのは竜平だ。

充と黒長は、どうせろくでもない事だと予想しているので、口出しなどしない。

そんな学習能力の無い、馬鹿な真似をするのは竜平だけ。

桐山ファミリーの中では、そういう立場が決まっているのだ。(最も、本人は気づいていないが)

実際、問いかけられたヅキは、ターゲットを竜平一人に絞った。

そして、にっこりと微笑む。(あぁ、気持ちの悪いことこの上ないぜ、全く)



「アタシ、三村くんとデートがしたい」

「・・・・・・・・・」



三人は押し黙った。というか、何と言えば良いか分からなかった。

三村のことは気に入らないし、ヅキは仲間なのだから応援してやるべきだろうか。

しかし、何だか素直に応援するのも癪・・・いやいや、馬鹿らしかった。

それに、ヅキの顔を見ていると、いくら三村といえど同情してしまう。

三人はそれぞれ目線を絡ませ、無言で頷くと、ヅキの言葉を無視した。

勿論それを許すヅキでは無い。ターゲットは既に竜平へ絞ってある。

一歩踏み出し、竜平に迫った。(勿論この時、博のお菓子はぺしゃんこになった)



「ねぇ、竜平ちゃん。三村くんにデートの約束してきてくれない?」

「ぜっっってぇーイヤだね!」

「何でよぉ!」

「俺は三村のこと、気に食わねぇんだよ」



基本的に竜平は、自分より秀でている奴は気に食わない。



「何でよ!あーんなにカッコイイじゃないの!」

「オカマの趣味と一緒にすんじゃねー」

「何よ!失礼ね!!」

「待てよ、ヅキ!良いじゃん?ライバルが減ったと思えばさ!」



雲行きが怪しくなってきたところで黒長が割って入った。

不良の癖に、あまり言い争いを好まないのだ。

しかし、それが運の尽き。

既に充は、黒長を哀れみの目で見詰めていた。



「まぁ・・・それもそうね」

「だろ?」

「じゃあ竜平ちゃんの代わりに・・・博ちゃんが言ってきてくれない?」

「えっ!?」

「良いでしょ?ちょっとデートを申し込むだけじゃない?」



どーこがちょっとだ。充はぼやいた。勿論口に出してはいないが。

百戦錬磨、喧嘩上等の充も命は惜しい。怒らせたオカマは恐ろしいのだ。

そのオカマに迫られている黒長は、殆ど泣きそうだった。

そうでなくても彼は、お菓子を潰されたショックから立ち直っていない。



「え・・・いや、俺も、ちょっと・・・」

「何でよ」

「え、だ、だって、三村が可哀想だろ」

「ちょっと!博ちゃん!それどういう意味よ!?」

「うわっ、ごめんっ」



ばこっという小気味良い音が響いて、黒長は思い切り頭を殴られた。

頭を押さえて蹲っている黒長を尻目に、ヅキの目線は充に向けられる。

ヅキが微笑んで、それを制するかの様に充は口を開いた。



「俺もイヤだぜ」

「まだ何も言っていないじゃない」

「何言われるかくらい分かるっつーの」

「何よぅ、ケチねぇ・・・」



ぷぅっと頬を膨らませるヅキに、思わず一同は鳥肌がたった。

しかしそれも一瞬。

ヅキの次の矛先は、桐山に向かった。

竜平と黒長は動きが止まり、充の顔からは血の気が引いた。



「き・り・や・ま・く・ん」

「・・・何だ?」



今までずっと本の世界へトリップしていた桐山は、ヅキに声をかけられ漸く戻ってきた。

彼は今までの騒ぎを知らない。竜平と黒長は面白そうに成り行きを見守っている。

充は、どうすれば良いか分からず、とりあえず青い顔のままヅキを威嚇していた。

勿論、そんなことはするだけ無駄というやつだったが。



「お願いがあるんだけどぉ〜」

「何だ?」

「あのね、アタシの代わりに、三村くんにデートを申し込んできて欲しいの」

「デート?」

「そう。ちょっと頼むだけで良いんだけどなぁ」

「そうか。分かった」



そう言って桐山は本を閉じて立った。

充は慌てて桐山を抑える。(というか、桐山の体にしがみついた)

そしてその体勢のまま、顔だけをヅキに向ける。



「お前何バカな事言ってんだよ!!!」

「あら、失礼ね」

「うるせぇ!そもそも、自分で言いに行けば良いだろ!?」

「恥ずかしいじゃない。もっと乙女心を理解してよねぇ」

「だ、だまれって!ボスもさ、行かなくて良いからな?」

「そうなのか?」

「あら駄目よぉ、桐山くん。行ってくれるんでしょ?」

「俺は別に構わないが」

「俺が構うんだよ!」



桐山ファミリーのボスが三村に、オカマの代わりにデートの申し込み・・・。

そんな不祥事、充は何が何でも避けたかった。桐山ファミリーの名折れだろう。

翌日からは笑い者になってしまう。充は必死だった。

ちなみに、彼の視界には入っていないが、竜平と黒長は爆笑していた。

竜平は腹を抱えて蹲り、黒長は口に手をあて、必死に堪えていた。



「桐山くん、充ちゃんのことは気にしないで。ね?」

「・・・そうか」

「待て待て待て!ボ、ボスが行くくらいなら俺が行く!!」



充が言った瞬間、ヅキの目が光った。そしてやっと、ヅキの狙いに気づく。

ヅキは、竜平と黒長と充が断るのは最初から予想済みだった。

何事にも無頓着な桐山は、断らないだろうが、当然ここで充が割って入ってくる。

しかしそれが狙いで、その流れになれば、桐山か充のどちらかは必ず確保出来るのだ。

充の最善の行動は、桐山を庇うことではなく、桐山を説得することだった。

結局、四人の行動を読み、充の桐山に対する精神を利用したヅキの勝利になったというわけだ。



「そ?じゃあ、よ・ろ・し・く・ね。充ちゃん」

「・・・・・・・・」



後日、城岩中3Bには、三村に頭を下げている充の姿があったとか・・・。




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桐ファミ。何気に初の充とヅキですね。二人とも好きですが☆
えと、まぁ基本は押さえとけって事で書き殴りました。
何か、何処にでもありそうなネタですが・・・。
ファミリーの中でヅキはこういう位置にいたと思います。
あんまり雰囲気を重く、悪っぽくさせないような。・・・ムードメーカー?笑。