(ナチュラルに闇が女の子)
(BC終結後戻ってきた闇→暫くして女体化)


















情事の後、己の分裂人格をその腕に抱き、ぽつぽつと他愛も無い話をするこの時間が、マリクは好きだった。 いつも邪険に扱っているものだから素直に言えはしないけれど、気だるい雰囲気の中で愛する人間を 抱きしめて二人で時間を分かち合うのだ。幸せでないわけが無い。 身体が女性になり少し身体つきが小さくなったとは言え、元々が同じ人間だっただけに体格は然程変わらない。 そんな人間を抱きしめるのは少しばかり不自由だけれど、そんなことは全く気にならない。 そう思えることが愛なのだろう、と、マリクは学んだ。 腕の中で彼女がもぞもぞと身じろぎする。逆立った毛が顎を掠め、くすぐったい。 くすくすと笑いながら、マリクは彼女を抱く力を強めた。







突然、彼女が「なあ」と口を開いた。マリクは「なんだ?」と返す。素っ気無くも感じる言葉だが、 その声音がとても穏やかなことに本人すら気づいていない。それを知っているのは彼女だけだ。







「俺の戸籍?とかってどうなってるんだ?」

「戸籍…?何だって急に?」







思いもよらない質問に訝しんだマリクは腕を解き、そっと彼女の肩を押し返す。 数分振りに見えた彼女の表情は万遍の笑みだった。







「こうやって俺の身体が女になったって事は、主人格様とケッコン出来るんだろぉ?」







続いたその言葉には、流石のマリクも言葉を失った。 結婚?自分と、彼女が?…結婚? 頭の中でその単語を何度も反復し、やっとその意味を理解した途端、マリクの褐色の頬は真っ赤に染まった。







「け、け、け、結婚って!、な、何言ってるんだよ!」

「したくないのか?」

「そうじゃなくて…無理だろ、僕はまだ16だし、学生なんだから」







己の闇が肉体を持ち自己を確立し、更に女性となってこうして自分と関係を結んでいる以上、そういった話になってもおかしくはない。 けれど簡単に決められることでも無く、心の何処かでずっとこの生ぬるい関係に甘んじていたいと願うマリクは、 知らず知らずの内に自分を逃がす口実を探していた。 まだ若いから、学生だから、職についていないから。 そう尤もらしいことを上げていく。 けれど彼女にはそんなマリクの気持ちなどお見通しであったし、そもそもそんなことはどうでも良かった。 彼女にとって重要なのは、愛する人と一緒に居られるか、否か。それだけであった。 それは長らく孤独を味わった人間が求めるものとしては、酷く当たり前のものだろう。







「…金なら、イシュタール家の財産があるじゃねぇか」

「あれは駄目だ!」







暫く軽い口論を続けていたが、彼女の一言を切欠にマリクが声を荒げた。 突然のことに驚いた彼女は少し肩を竦ませる。 その様子にマリクは気まずそうに目を伏せ、しかしそれでも言葉を続けた。







「だってあれは…墓守の一族が代々大切に守ってきたもので…王が目覚める時に、必要とあらば使えって…そうやって守られてきたものだから、その…」







「兎に角あれは王の為にあるべきなんだ!」と。そう言い切って視線を上げたマリクを待っていたものは、穏やかに微笑む彼女の姿だった。 見た目に反し精神年齢の幼い彼女は、マリクと口論になった時に不貞腐れてしまうことも少なくない。 そうしてその度に色々な誘惑で甘やかしては機嫌を直そうと必死になるのだ。 今回もまたそうなるのだろうと半ば覚悟していたマリクだけに、彼女のその反応には思わずぽかんとしてしまう。 しかしそんなマリクの反応など気にする様子もなく、彼女はただ微笑いながら言うのだ。







「そうかぁ……王の為、ねぇ。主人格さまがそんな事を言う日がくるとはねぇ…」







…あぁ、そうなのか。彼女の笑顔を見てマリクは思った。 前に、王への復讐の為に自分がグールズを結成し始めた頃、姉のイシズも兄のような存在のリシドも笑顔を見せてくれなくなった。 二人の優しく暖かい笑顔が見たいとは思いつつも、己のしていることを信じて疑わなかったマリクには、その笑顔を取り戻す術が分からなかった。 しかし全てが終わった後、取り返しの付かない過ちを犯してしまったマリクを迎えてくれたものこそが、マリクが望み続けた笑顔の二人だったのだ。 そこで初めてマリクは自分の罪を思い知った。そうして同時に知ったのだ。自分が如何に愛されていたかを。 自分がこうして前を向き生きようとすることで、こんなにも喜んで見守ってくれている人がいるのだと。 王への復讐のことしか考えられず、大切な人を蔑ろにしてしまった自分を酷く恥じた。 今の彼女の笑顔は、自分を迎えてくれた時の姉や兄と全く同じものだったのだ。 寧ろ、それよりも深い愛情と慈しみを感じる。それはきっと。







「(お前が誰よりも僕の苦しみを分かってくれていたからだよな)」







マリクが自身の苦痛を受け流すために生み出してしまった闇。受け止めきれない苦痛は全て彼女に与えてしまった。 しかし悲しいことに、その為に生み出された彼女はそれを辛いと感じることさえ無かった。 何も言わず、ただマリクの為に苦痛を引き受け続け、全てを恨んだマリクの為に全てを破壊しようとし、 生きることを諦めたマリクの為にマリクを葬り去ろうとした。 彼女の中心はいつもマリクで、それが全てだった。 そうやって幼い頃から…全てを恨んだあの日から、共に居てくれた彼女だからこそ誰よりも優しく微笑ってくれているのだろうかと、 そう思うと、愛しさや切なさや感謝の気持ちや、一言では言い表せないくらい沢山の想いが混ざって目の奥がつんとした。 衝動のままに、思い切り彼女を抱き寄せ名を呼ぶ。おずおずと背に回る手に、今度こそ涙が出た。







「苦しいよ、主人格さま」

「あぁ……あぁっ…!」

「泣くなよ。……ケッコン、別に良いから」







え、と顔を上げたマリクの涙を彼女は優しく舐めとった。 そのまま猫のような仕草で、マリクの肩辺りに頬を寄せる。







「俺は主人格さまと一緒に居られればそれで良いよ。…悪かったねぇ、困らせて」







それが彼女が気を使っているだけなのだということは、当然マリクは理解していた。 彼女は、普段は傍若無人で我侭なくせに、肝心なところではマリクを優先してしまう。 だからマリクは再度彼女を抱きしめた。 いつも自分を受け入れ、支え続けてくれていた、そんな彼女に。







「学校卒業したら働くから。…そしたら結婚、しようか」







だって、今度は僕がお前を笑顔にする番だろう?
















結婚願望の強い彼女と優柔不断な彼氏。
途中から迷走し始めたのがありありと出ていますね…。
自分でも収集つかなくなったので強制終了^^
取り合えず二人で支え合って生きて行って下さい。
未来は明るいよ!って、ね!