(現代に来ちゃった盗賊王)
(盗賊王と闇マリクは恋人同士)
(3ばくで仲良く暮らしています)


























「ほらよ」







そんな素っ気無い言葉と共に投げつけられた箱に、バクラはただ困惑するばかりだった。 箱は両手の平に乗る程のサイズで、それなりの重さがある。 しかしバクラを困惑させたのは箱の大きさよりもその外見だ。 ピンクの包装紙に包まれたそれは、更に赤いリボンが巻かれている。 仕舞いにはハートのシールまで張られていて、渡してきた本人との余りのギャップにどう反応すれば 良いか皆目検討もつかなかった。ついでに言えば中身の想像もつかない。 これは一体何なのか、と。ただその疑問だけがバクラを支配する。







「…なんだよ、これ。オレ様にくれんのか?」

「あぁ」







バクラにチョコレートを渡した張本人マリクは、さっさとソファに座って雑誌を開き始めている。 既に興味も無い、といった態度のマリクに、バクラの疑問は膨らむばかりだ。 自ら孤独を好むと言うだけあって、元々甘えてくるような性格ではないが、今日は一段とそれが顕著だ。 まともに相手をしてくれそうにないと悟って、バクラはびりびりと包装紙を破き始める。 マリクは一瞬ちらりとバクラを見たが、バクラが気づかないうちにすぐに視線を戻した。







「ちょこれー…と?」







紙の破ける音が止んだ途端聞こえたのは、ぽかんとしたバクラの言葉だった。 チョコレート、は、漸く現代に馴染み始めたバクラが最近覚えた食べ物の一つだ。 彼の面倒を見ている獏良了は甘党らしく、チョコレートやシュークリーム、エクレアなどの洋菓子をよく 購入してくるため、必然的にバクラも覚えたのだった。 しかし、箱の中身が分かったところで、マリクがそれをわざわざ包んで、更にわざわざ家に来てまで渡してくる意図が掴めず、 相変わらずバクラの頭には疑問符が浮かぶばかりだった。







…そう、バクラは知らないが、今日はバレンタインデーだったのだ。 マリクがバクラにチョコを上げたのもそういう理由であり、更にいつもより態度が素っ気無いのは 照れ隠しだったのだが、如何せん3000年前、古代エジプトからきたばかりのバクラは、当然、バレンタインなどという イベントについては一切知らなかった。 バクラはソファに座るマリクの元へ行き、彼の肩に腕を回ししつこく問いかける。







「なぁー、何でちょこれーと?なあ」

「…知らねえ」

「知らねえって…何でわざわざこんなモンくれんだよ」

「………自分で考えやがれ…!」

「はぁ?オレ様が分かるわけねーだろー!」

「あああ!うるしぇええええ!!」







ぐんぐん顔を近づけて質問攻めにしてくるバクラに耐えられなくなったマリクは、バクラの 腕を振り解くと自室へ駆け込み、鍵をかけて閉じ籠もってしまった。 残されたバクラは呆然とするしかない。勿論、マリクが“恥ずかしさ”に耐え切れなくなった、というのには当然気づくはずも無く。







「一体何だってんだァ…?」







心底不思議そうに首を傾げると、チョコを一つ口に放り込んだ。 甘ェ、と呟き、目を瞑る。 帰宅した獏良にバレンタインについて教えてもらったバクラが、マリクにチョコレート味のキスをするのはあと数十分後のこと。




















初盗賊王!ちょっと凡骨に近い。
熱血鈍感エロ、と青春を謳歌しているような性格。